葉山へ移つてから、三四日の間、勝平は瑠璃子を安全地帯に移し得たことに満足したのであらう。人のよい好々爺になり切つて、夕方東京から帰つて来る時には、瑠璃子の心を欣すやうな品物や、おいしい食物などをお土産にすることを忘れなかつた。 葉山へ移つてから、丁度五日目の夕方だつた。其日は、午過ぎから空模様があやしくなつて、海岸へ打ち寄せる波の音が、刻一刻凄じくなつて来るのだつた。 海に馴れない瑠璃子には、高く海岸に打ち寄せる波の音が、何となく不安だつた。別荘番の老爺は暗く澱んでゐる海の上を、低く飛んで行く雲の脚を見ながら、『今宵は時化かも知れないぞ。』と、幾度も/\口ずさんだ。 夕刻に従つて、風は段々吹き募つて来た。暗く暗く暮れて行く海の面に、白い大きい浪がしらが、後から/\走つてゐた。瑠璃子は硝子戸の裡から、不安な眉をひそめながら、海の上を見詰めてゐた。烈しい風が砂を捲いて、パラ/\と硝子戸に打ち突けて来た。 「あゝ早く雨戸を閉めておくれ。」 瑠璃子は、狼狽して、召使に命じると、ピツタリと閉ざされた部屋の中に、今宵に限つて、妙に薄暗く思はれる電燈の下に、小さく縮かまつてゐた。キャバクラ アルバイト